借金返済|火災保険の請求

設置
被告
平成

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求の趣旨

1 被告は,原告に対し,6024万円及びこれに対する平成21年3月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言(これに対し,被告は仮執行免脱宣言の申立てをしている。)

第2 事案の概要

本件は,被告との間で個人財産総合保険契約を締結した原告が,当該保険契約の目的である建物が火災により全焼したとして,被告に対し,当該保険契約に基づき,保険金6024万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年3月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(認定根拠の掲記のない事実は当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨から認められる。)
(1)当事者等
ア 被告
被告は,保険業務などを扱う株式会社である。
イ 原告(甲21)
(ア)原告は,別紙1物件目録記載の土地及び建物(当該建物を以下「本件建物」といい,土地と併せて以下「本件不動産」という。)の所有者である。
(イ)原告は,一橋大学を中退した後,株式会社富士銀行に入行し,昭和59年ころ同行を退職して,不動産ディベロッパー会社である「A」に入社し,同社勤務中である昭和63年7月に有限会社B企画(以下「B企画」という。)を設立し(甲22),平成元年ころ「A」を退社して,B企画において不動産業等を営んでいた(原告149項ないし208項)。
そして,原告は,バブル崩壊の余波を受けて,平成14年ころ,B企画は倒産し,廃業した(ただし,実際の活動はそれ以前から休止していた。原告243項)。
原告は,B企画の活動休止後,しばらくは埋蔵文化財の調査の仕事等を行っていたが(原告277項),平成13年ころ,C商事株式会社(以下「C商事」という。)に入社し,経理の仕事を担当するようになった(原告272項ないし281項)。
そして,同社の社長急逝のため,同社の任意整理手続を手伝った後,平成18年9月に,有限会社Dに嘱託社員として入社して総務の仕事をしていたが,本件口頭弁論終結時までには同社を退社した(原告4項ないし11項)。
ウ E
Eは,本件建物の一部を原告から賃借していたとされる人物である。
(2)本件建物の間取り等
本件建物の間取りは,1階部分は別紙2「1階平面図」のとおりであり,2階部分は別紙3「2階平面図」のとおりである(なお,以下,特段の断りのない限り,本件建物の各部分の呼称は,当該各別紙に記載された呼称に従うものとする。)。
(3)原告による保険契約の締結
原告は,平成19年10月17日,被告との間で,大要,以下の内容の個人財産総合保険契約を締結した(以下「本件保険契約」という。)(甲1)。
ア 保険契約者 原告
イ 証券番号 (省略)
ウ 適用される保険約款 個人財産総合保険普通保険約款
地震保険普通保険約款
エ 保険期間 平成19年10月17日午後4時から
平成20年10月17日午後4時まで
オ 保険の目的の所在地 (省略)
カ 保険の目的の所有者 原告
キ 保険料 基本 7万6250円,地震 1万3550円
合計 8万9800円
ク 建物の基本保険金額 6024万円
(4)火災の発生等
平成19年12月2日午前3時23分ころ(甲2),本件建物において火災が発生し(以下「本件火災」という。),本件建物は全焼した(乙2,乙11・2頁)。
(5)保険金の請求等
原告は,本件火災の後,被告に対し,本件火災を原因とする保険金の支払請求をした。
これに対して,被告は,被告担当者ないし被告代理人弁護士の作成に係る平成20年11月20日付け書面等により,原告の当該請求を謝絶する旨等を通知した(甲3,5,6)。
2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1)本件火災は原告又はその意を受けた者により発生したものか
(被告の主張)
1本件建物の焼損状況等からみて,本件火災が何者かによる放火によって発生したと認められ,出火場所は本件建物内の2カ所であると考えられること,2本件建物は本件火災に先立ってきちんと施錠されており,本件建物に出入りできたのはその鍵を所持している原告とEだけであったこと,3原告又はその意を受けた者による放火を推認させる積極的事情(不審点)が多数認められること,具体的には,(a)原告及びEは経済的困窮状態にあり,同人らには本件建物を焼失させて不当に保険金を取得する十分な動機があったこと,(b)原告が本件建物を購入する合理的な理由がなかったこと,(c)原告がEに本件建物を占有させていた合理的な理由がないこと,(d)本件保険契約の締結経緯及び契約内容が不審であること,(e)原告が複数の住所を使い分けて居住実態を秘匿しており不審であること,などからすれば,本件火災は,原告又はその意を受けた者の故意によるものと認められるから,被告は保険金支払義務を負わない。
(原告の主張)
ア 被告の主張は,否認ないし争う。
イ 被告の主張の1の点については,被告側の立場で私的鑑定を行ったF(以下「F」という。)による鑑定(以下「F鑑定」という。)の根拠が薄弱であって妥当でないこと,2の点については,原告が本件建物の鍵を所持していなかったこと,3の(a)の点については,(Eの経済状態は不知であるが)原告及びその妻には十分な収入があり,負債も住宅ローンと原告の前妻の借金があるのみであること,(b)の点については,Eの持ちかけた話をきっかけに,将来的には本件建物に転居しようという動機から本件不動産を購入したものであり,その動機には十分な合理性があること,(c)の点については,原告とEの間に本件建物の一部についての賃貸借契約が締結されており,Eが本件建物を占有している合理的理由があることは明らかであること,(d)の点については,本件保険契約の締結に関与した代理店の代表であるGと原告は旧知の仲であり,本件保険契約の保険金額についても当該代理店の査定によるものであったこと,(e)の点については,原告の住所地の使い分けには合理的理由があることからして,被告の主張には理由がない。
(2)本件保険契約は公序良俗違反により無効か
(被告の主張)
本件保険契約は,原告が故意の放火により火災保険金を不正に取得する目的のために締結されたものであって,公序良俗に違反し無効であるから,原告の被告に対する保険金請求権は発生しない。
(原告の主張)
否認ないし争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(本件火災は原告又はその意を受けた者により発生したものか)について
(1)認定事実
前記第2の1の事実,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる(分かりやすさの観点から,前記前提事実についても必要に応じて再掲する。
なお,証人Eの第2回口頭弁論及び第3回口頭弁論における各証言を証拠として掲げる場合は,各証人調書における通し番号を付して「E2−○項」,「E3−○項」のように特定する。)。
ア 本件建物の周辺の状況(乙4,9)
(ア)本件建物の東側と南側は山林に面している。
また,本件建物の北側及び西側には一般住宅があるが,それらの住宅は,本件建物の概ね西側を流れる発心川を挟んだ先に位置している。
(イ)本件建物の南西には,発心川に架けられた橋があり,本件建物に立ち寄るにはこの橋を渡る必要があるが(乙11添付資料2写真第1号),当該橋を渡った先には本件建物しか存在せず,道は行き止まりになっている(E3−40項)。
イ 原告による本件不動産の購入等
(ア)原告は,平成19年10月16日,Hから,本件不動産を代金合計額2420万円で購入した(甲7)。
(イ)そして,原告は,同月17日,被告との間で,本件保険契約を締結した(甲1)。
本件保険契約の締結にあたっては,原告は,以前より知り合いであったが特に個人的な親交があった訳ではないGに対して話を持ちかけた(乙20)。
そして,Gが保険会社のマニュアルに従って,都道府県別の構造別の単価と面積から本件建物の再調達価格の評価を行い,保険金額を設定して原告に提示し,これを原告が了解したため,建物の基本保険金額を6024万円とする本件保険契約が締結された(乙20)。
ウ Eによる本件建物の賃借等
(ア)原告は,平成19年10月31日付けで,Eの経営するE生活科学研究所との間で,本件建物の1階部分の賃貸借を内容とする契約書を締結した(その概要は以下のとおり。)(甲9)。
1 使用目的:高年者共同生活施設「(省略)」の運営に使用する。
2 契約期間:平成19年11月1日から平成29年10月31日までの10年間。
3 賃 料:平成19年11月1日から平成20年5月31日まで無償,同年6月1日から平成25年5月31日まで月額2
0万円,同年6月1日以降月額25万円。
4 敷 金:150万円
5 特 約:借主は,平成20年2月末日までは,本件建物の貸主使用部分の書斎,納戸等を利用できる。
(イ)なお,上記賃貸借契約に係る契約書は,体裁の異なるものが複数締結されており(乙15),また,Eは,本件共済契約(後に定義す
る。)の締結に際しては,これらの契約書とは内容の異なる別の賃貸借契約書を提示していた(賃借の対象が本件建物全体であるように記載され,契約期間も20年間とされている等の相違がある。乙16)。
(ウ)そして,Eは,平成19年11月16日,全国共済農業協同組合連合会(以下「JA共済連」という。)及び久留米市農業協同組合(以下「JA久留米」という。)との間で,本件建物内の営業什器備品につき,建物更生・賠償責任共済契約を締結し,また,本件建物内の家財家具一式についても,同様に,建物更生・賠償責任共済契約を締結した(以下,両契約を総称して「本件共済契約」という。)(乙13,21)。
(エ)なお,Eは,本件共済契約の締結時には,建物の用途として,グループホーム兼住宅としていた(乙21・別紙1,3,6)が,Eは当該用途を否定する供述をしている(E3−1項ないし21項)。
エ 本件火災の発生
平成19年12月2日の午前3時23分ころ,本件火災が発生した。
オ Eの本件火災の前後の行動等
(ア)Eは,本件火災の発生した日に先立って,本件建物の1階部分に,家財道具等を搬入していた。
そして,Eは,西側和室を自らの生活スペースとして利用し,コタツや寝具などを置いていた(E2−93項)。
なお,Eは,何度か暖炉を使用したが,最後に使用したのは平成19年11月25日であり(乙7),本件火災の前日には暖炉を使用し
ていなかった。(本項につき,甲20)
(イ)本件火災の前日,Eは,19時から20時くらいまで,本件建物に滞在していた。
その間に,Eは,西側和室のコタツに座って,数本タバコを吸い,その吸い殻は,陶器の灰皿に入れた(乙4,乙10・写真69)。(本項につき,乙7)
(ウ)そして,Eは,本件建物の玄関の施錠を確認してから(乙7,E3−127項),外出し,知り合いの女性と共に,飯塚のスナックに行き,それから食事をしに行った後に,仮眠をとるために向かったネットカフェの駐車場で,同人の携帯電話に消防か警察から架かってきた電話により,本件火災の事実を知らされた(E2−163項ないし179項,E3−116項,117項)。
(エ)Eは,その後,JA共済連ないしJA久留米に対し,本件火災による罹災家財申告を行い,その後のJA共済連における調査等を経て,営業什器備品の損害額が700万円,家財家具一式の損害額1078万5000円と算定された(乙21)。
(オ)そして,EとJA久留米は,協議を経て,最終的に,平成20年12月11日,福岡簡易裁判所における即決和解により,JA久留米のEに対する本件共済契約による共済金の支払額を320万円とすること等を合意した(乙21・別紙10)。
カ 原告,原告の妻及びEの経済状態
(ア)原告について
原告の市県民税(所得)証明書上の収入額は,平成17年分が221万8194円(公的年金等収入額のみ)であり(甲13),平成18年分が322万9930円(公的年金等収入額221万3730円と給与収入額101万6200円の合計)であり(甲15),平成19年分が436万6698円(公的年金等収入額221万1498円と給与収入額215万5200円の合計)であった(甲17)。
なお,原告は,上記の他にも税務申告をしていない収入があったとしており,無申告の理由として,C商事の任意整理手続を手伝った際の報酬であり弁護士法違反にもなりかねない性質の支払であることなどを挙げ,また,負債については,住宅ローンと前妻の借金が若干あるのみであるとしているが,いずれも確たる証拠はなく,その経済状態の実態は不明である。
(イ)原告の妻について
原告の妻であるIの市県民税(所得)証明書上の所得額は,平成17年分が139万8148円であり(甲14),平成18年分が154万2311円であり(甲16),平成19年分が162万1126円であった(甲18)。
原告の妻の負債の状況については,その実態は明らかでなく,その経済状態の実態は不明である。
(ウ)Eについて
Eは,かつて経営していた会社の負債を含めると,2億円から3億円程度の借金を抱えて,返済の督促を受けており,破産をするか,破産をせずに何とか少しでも返済していくか迷っている状態であった(E2−205項ないし214項)。
なお,Eは,平成20年8月ころ,交通費欲しさから建造物侵入等の罪を犯して,懲役1年執行猶予3年の刑を受けた(E2−397項ないし407項)。
また,Eは,本件建物の軒の工事を地元の業者に発注して施工させたが,その請負代金を支払っていない(甲23)。
キ 本件建物の焼損状況等(乙4)
平成19年12月2日午前9時30分から同日午前11時45分にかけて,本件火災に係る本件建物の実況見分が実施された。
その結果,以下の各事実が判明した(なお,以下では,便宜上,実際の方位でいう「東北東」を「東」といい,同様に,「西南西」を「西」,「南南東」を「南」,「北北西」を「北」ということとする。)。
(ア)本件建物外周部について
a 本件建物の北側は,2階窓ガラスは焼損し,煙突部西側の壁及び屋根は焼け落ちている(乙10・写真2及び3)。
なお,本件建物の1階部分の北側には,西から順に,軒・カーポート・ガレージが並んでいるところ,木製の軒の柱及び垂木には焼損は見られないが,カーポートのアクリル板で出来た屋根は南側が溶融している(乙10・写真8ないし11)。
b 本件建物の西側は,1階外壁は残存しているが,2階の屋根は焼け落ち,母屋(もや)及び合掌は変形している(乙10・写真4ないし6)。
c 本件建物の南側は,1階外壁は残存しているが,2階の屋根は焼け落ち,母屋は変形している(乙10・写真7)。
d 本件建物の東側は,外壁などに焼損は見られない(乙10・写真12及び13)。
e 以上のとおり,本件建物の1階外壁部分は概ね残存しているといえる(なお,乙11添付資料2写真第1号ないし第8号参照)。
(イ)本件建物内部について
a 本件建物内部の焼損状況等の概要は,別紙4「本件建物内部の焼損状況等」に記載したとおりである(乙10)が,加えて,以下の状況が認められる。
b 本件建物のリビングには,ライターが残焼物として認められ(乙11添付資料2写真第24号ないし第26号),また,西側和室の南寄りの場所には,コタツが残焼物として認められる(乙11添付資料2写真第31号ないし第34号)。
c 本件建物の勝手口付近には配電盤があるが,ここから発火したことを窺わせるようなショートの痕跡(いわゆる短絡痕ないし溶融痕といわれるもの)は,特段認められない(乙11添付資料2写真第27号ないし第30号)。
d 本件建物の勝手口のドアの錠は,補助錠も含め,閂の出た状態で焼損していた(乙11添付資料2写真第35号及び第36号)。
なお,原告は,当該勝手口のドアの鍵を所持していた(乙14・7
頁)。
また,当該勝手口の鍵は暗証番号付きのダイヤルロック式であったが,暗証番号を入力しなくても解錠可能な状態であった(乙1
4・16頁)(付言するに,仮に,当該勝手口の鍵が,暗証番号を入力しないと解錠可能でない状態であったとしても,当然ながら,鍵を所持する人物が暗証番号を知らされていれば,解錠可能である。)。
e 本件建物の玄関の引き戸は,4枚の戸で構成されているところ,建物の外側から見て(戸が正しい位置で全て閉まった状態の場合に)左から3番目に位置する戸は焼損して戸枠から外れていたが,錠は
「閉」となったまま焼損していることから,本件火災の当時,当該戸も戸枠にきちんとはまって施錠されていたものと認められる(乙11添付資料2写真第9号,第10号,第37号ないし第40号)。
そして,左から2番目に位置する戸の錠は「開」となっているように見えるが,その余の戸の錠は「閉」となっている(乙11添付資料2写真第41号ないし第44号)。
(ウ)油彩反応
本件火災に係る実況見分時に実施された油彩試験では,油彩反応は認められなかった(乙4)。
ク 出火場所・出火原因についての消防判定
(ア)本件火災の出火場所について,消防判定の結論は,不明である(平成20年1月25日付けの消防の「火災原因判定書」では,結論と思われる部分がマスキングされており,判読できない。乙3)。
(イ)本件火災の出火原因について,消防判定では,「タバコ,電気関係,暖炉,放火それぞれについて検証を行ったが,出火原因に結びつく確たる証拠は認められないため,本火災の原因は不明とする。」とされている(乙3)。
ケ 原告の居住実態等(甲21)
(ア)原告の実際の住所地は,(省略)所在のマンションである(原告456項)(以下「本件マンション」という。)。
なお,本件マンションの地下には,地下に物置スペースがあり,原告もその1区画を利用しているところ,当該物置スペースは,各利用者の利用区画ごとにシャッターが閉まり施錠できる構造になっており,また,地下の物置スペースに降りるための入り口には,南京錠がかけられている(甲19)。
(イ)原告は,本件保険契約締結時には,住所地として,「(省略)」を記載していた(以下「本件第2住所地」という。)(甲1)。
同所は,原告の元の勤務先であるC商事の専務であったJの自宅であり,原告はJの承諾を得て同所に住民票を置き,また,原告名義の郵便ポストを設置していた。
(ウ)原告は,現在,その住民票を「(省略)」に置いている(以下「本件第3住所地」という。)。
同所は,原告が以前居住していた住所地である。
(エ)原告は,このように他人の住居に住民票を置いたり,郵便ポストを設置したり,また,以前の住所地に住民票を置く理由として,右翼系暴力団員からいわれのない脅迫を受けた経緯があったこと等を挙げている。
(2)出火場所について
ア 前記認定事実のとおり,本件建物の1階外壁部分は概ね残存していること等から,出火場所は本件建物の内部であると考えられるところ,本件建物の2階部分の焼損状況からして,同部分は,1階のステージ上部の吹き抜け部分から延焼したものと考えられ,また,1階東側洋室や北側浴室の焼損状況から,これらの部分は西側から延焼したと考えられ,1階洗面所と台所の焼損状況から,これらの部分は南側ないし西側から延焼したと考えられ,リビングの焼損状況から,同部分は西側から延焼したと考えられ,玄関と玄関付近のトイレの焼損状況から,これらの部分は南側から延焼したと考えられることなどを考慮すれば,本件火災の出火場所は,西側和室の内部(以下「A地点」ともいう。)であったと見ることが相当である(F17項。
なお,乙3参照。)。
イ この点について,F鑑定は,A地点に加えて,1階東側和室からステージにかけての部分(以下「B地点」という。)も出火場所であると判断している。
このように,F鑑定がA地点のみならずB地点も出火場所であると判断する主たる根拠は,A地点とB地点付近は焼損の程度が著しいのに対して,(B地点とA地点の間に位置する)1階リビングの床部分がそれほど焼損,崩落していない点にあると考えられる(乙11,F167項)。
しかしながら,1階リビングには床下暖房が設置されており,アル
ミ箔が床板の下に敷かれていたのであって(乙11,F159項),当該アルミ箔の存在によって1階リビングの床部分が(A地点及びB地点と比較して)それほど焼損しなかったとも考えられるところである(F262項,367項,368項)にもかかわらず,F鑑定においては,当該アルミ箔の影響について慎重に検討された形跡も見られないのであって,F鑑定のとおり直ちにB地点を出火場所と認定することはできないというべきである。
ウ 以上によれば,本件火災の出火場所として認定できるのは,A地点のみである。
(3)放火以外の出火原因について
ア タバコの火の不始末の可能性
(ア)前記認定事実のとおり,Eが本件火災の前日に西側和室のコタツに座って数本タバコを吸い,吸い殻を陶器の灰皿に入れた事実が
認められるところ,実況見分の結果でも灰皿下部の畳部分に焼けこ
みが見られていないこと(乙4参照)からすれば,当該灰皿から吸
い殻が落下した等の理由により出火に至った可能性は考えにくいと
ころである。
(イ)そして,F鑑定でも,西側和室にタバコなどの微小火源による燻焼した部位は全く確認されないとされていること(乙11,F2
76項ないし278項),消防もタバコの火の不始末が出火原因で
ある可能性について否定的見解を示していると考えられること(乙
3)からすれば,本件火災の出火原因がタバコの火の不始末である
可能性は極めて低いものと考えられる。
イ 暖炉の火の不始末の可能性
前記認定事実のとおり,Eが暖炉を最後に使用した日が平成19年
11月25日であると認められること,暖炉内部の焼損が見られないことなどからすれば,本件火災の出火原因が暖炉の火の不始末である可能性は極めて低いものと考えられる(F164項,乙3参照)。
ウ その他の失火ないし自然発火の可能性
その他,本件において,西側和室にあったコタツ(F92項ないし
98項参照),リビングの残焼物の中に見られるライター(F70項ないし82項参照),リビングの床下暖房(F159項参照),勝手口 付 近 の 配 電 盤 ( F8 3 項 な い し 9 1 項 参 照 ) , ハ ロ ゲ ン ヒ ーター(乙3)など,失火ないし自然発火の原因となりうる箇所についても,出火原因となった痕跡は特段見受けられないところであり(Eも,電化製品の不具合を感じたことは無かった旨を説明している。
乙7),失火ないし自然発火の可能性を合理的に疑わせる事情は認められない。
エ したがって,本件火災が失火ないし自然発火によって発生したものである可能性は極めて低いというべきである。
(4)第三者による放火の可能性
ア 上記(2)のとおり,本件火災の出火場所は本件建物内部の西側和室であると認められるところ,前記認定事実のとおり,本件建物の玄関の引き戸は本件火災当時きちんと閉まっていたと考えられること,Eも当該部分の施錠を確認したとしていること,勝手口のドアも閂の出た状態で焼損しており本件火災当時は施錠されていたと認められること,その他,本件建物に第三者が侵入した事実を裏付ける事情も本件において特段見受けられないことなどからすれば,本件火災が第三者の放火により発生した可能性は極めて低いものと考えられる。
イ なお,前記認定事実のとおり,本件火災の当時,本件建物の玄関の引き戸の4箇所の錠のうち1箇所が「開」になっているように見える事実が認められるが,Eが当該部分も含めて施錠を確認したとしていること(Eは,玄関の扉が開かないか,ガタガタと動かしてみる等の確認をしていた。
E3−128項)等も考慮すれば,直ちに当該部分が本件火災の当時において解錠されていたということはできず,また,前記認定事実のとおりの本件建物の周辺の状況からして無関係な第三者が本件建物を訪れるとは考えがたいことなども併せ考えれば,仮に当該箇所が施錠されていなかったとしても,第三者による放火の可能性が一定程度あったということはできず,上記判断を左右しないというべきである。
(5)原告又はその意を受けた者による放火の可能性
ア 続いて,原告又はその意を受けた者による放火の可能性について検討するに,前記認定事実のとおり,原告は本件建物の勝手口の鍵を所持していたと認められ,また,Eも本件建物を使用しており,本件建物の鍵を所持していたと認められるので,原告又はE若しくは同人らから鍵を渡された人物であれば,本件建物の内部に侵入して放火を実行することは可能であったといえる。
そこで,以下,本件火災が原告又はその意を受けた者の故意によって発生したものと推認できるかについて,検討する。
イ 原告が本件不動産を購入した経緯等について
(ア)原告は,本件不動産を購入した経緯等について,大要,1平成19年9月下旬ころに,突然,Eから電話があって,本件不動産を利用した事業を計画しているが,購入資金がないのでスポンサーを探している,という話があった,2原告自身が本件不動産をインターネットで確認したところ,上質な物件で価格も手ごろであったため,1階をEに賃貸して2階を退職後の夫婦の住居としようと考えて,本件建物を購入することを検討するようになった,3同年9月30日に仲介する不動産屋に赴き,その案内で本件不動産を実際に見分した上で,Eに事業計画についての説明を求めた,4Eから事業計画の説明を受けて,十分見通しが立つようであると判断できたこと,敷金として150万円の預託を受ける等の賃貸の条件を出したところEが全て承諾したことから,本件不動産の購入とEへの1階部分の賃貸を決意した,5そして,同年10月16日,Hから,本件不動産を代金合計額2420万円で購入した,6購入の原資は,本件マンションの地下にある物置スペース内のゴルフのキャディバッグのポケットに保管していた現金2600万円を充てた,と主張し,これに沿う供述をする(甲21,原告71項ないし78項)。
(イ)しかし,原告が本件不動産の話を最初に聞いたとされる時点(平成19年9月下旬ころ)から,原告がこれを実際に購入した時点(同年10月16日)までの期間が,わずか1か月足らずであり,その短い期間内に,原告が,それまで親しい関係にあった訳でもなくその経済状態も知らなかったとするEの事業計画について,十分な事業計画書も示されないままに(甲10,原告445項),本件不動産を購入して1階部分をEに賃貸する形で当該事業に関与する旨を決めたとされていることは,原告の銀行員等としての経歴等に照らして,必ずしも合理的な判断とは考えられず,不自然であるというべきである。
また,原告は本件建物の2階部分を退職後の原告ら夫婦の住居としようと考えていたとするが,そうであれば当該計画について原告の妻に対して事前に説明していてしかるべきところ,事前に説明していなかったこと(原告462項ないし464項)は,不自然であると評価せざるを得ない。
殊に,本件建物の1階部分を他人であるEに貸してその事業である高齢者向けの施設とし,原告ら夫婦が2階部分に居住する計画であったというのであるから,そのように複数の他人(入居者ら)との共同生活が見込まれる以上,たとえ,後に工事を行って出入口を別に作る予定であったとしても(原告460項),事前に妻に事情を説明しておくことが常識的な対応であると考えられるが,それにもかかわらず,原告は妻には事前に何ら説明・相談をしていないというのであって,これは著しく不自然である。
さらに,原告の主張によると,原告は当時3000万円程度の現金を持っており,そのうちの2600万円を本件不動産の購入に注ぎ込んだとされているが(原告440項,441項,447項,448項),その保有する金融資産の大半を本件不動産の購入に充ててしまうことになり,本件不動産購入時の原告の年齢や原告は近々の退職が見込まれていたこと(原告449項)等を考慮すると,この点も不自然であると考えられる。
また,原告は,2600万円もの現金を本件マンションの地下の物置スペース内に保管していたとしているところ,このような場所に多額の現金を保管していたということも全くあり得ない話とまでは言えないものの,多額の現金を手元に置いておきたい等とする原告の説明を踏まえてもなお,不自然であると言わざるを得ない。
(ウ)その他,本件に現れた一切の事情を考慮しても,原告が本件不動産を購入した経緯等として主張する上記(ア)の経緯等は,不自然
な点が多数見受けられ,よって,原告が本件建物を購入する合理的
理由があったとは認められないというべきである。
ウ Eによる本件建物の利用等
(ア)原告は,原告とEの間に本件建物の一部についての賃貸借契約が締結されており,Eが本件建物を占有している合理的理由があることは明らかである旨を主張する。
(イ)しかし,前記認定事実のとおり,原告とEの間の本件建物の1階部分の賃貸借契約書は,体裁の異なるものが複数締結されており,更に,Eは本件共済契約の締結に際して,これらの契約書とは(賃
借の対象が本件建物全体であるように記載され,契約期間も20年間とされている等の)内容の相違がある別の賃貸借契約書を提示していたと認められることからして,原告とEの間の賃貸借契約には不自然な点が見受けられる。
そして,原告が証拠提出する1階部分のみを対象とする契約書の
内容を前提としても,当初の半年間の賃料が無料であるなどの不自
然とも思われる規定があること,敷金150万円の授受を裏付ける
客観的証拠が見当たらないこと(原告によると,領収書は焼失した
とされ,金銭授受も現金で行われて預金していないため銀行振込の
記 録 等 が 存 在 し な い と さ れ る 。
 乙 1 4, E 2 − 8 1 項 な い し 8 3項),前記認定事実のとおりのEの経済状態からして,Eが当該1
50万円をどのように調達したかという点も不自然に思われるとこ
ろ,Eはこの点について借金によるとするのみで,明確に貸主につ
いて供述できていないこと(E2−77項ないし80項),加えて,Eの事業計画について十分な事業計画書も作成されておらず(甲10,原告445項)その実現可能性は不明であったことや,前記認定事実のとおりのEの事業における本件建物の用途についての説明の変遷
(グループホームであるか否か)なども考慮すれば,原告が本件建物の1階部分をEに賃貸したとする原告の主張は,不自然な点が多数
見受けられると言わざるを得ない。
(ウ)以上のことからすれば,原告がEに本件建物を占有させていた合理的な理由があったとは認められないというべきである。
エ その他の事情
(ア)前記認定事実のとおり,原告及びその妻の経済状態は不明であるという他ない。
(イ)また,原告らは,前記認定事実のとおり,実際の住所地である本件マンションの他に,本件第2住所地や本件第3住所地など,本
来の住所地ではない場所に住民票や郵便ポストを置くなどしており,その実際の住所地を秘匿する意図があるものと認められるところ,
この点についての原告の説明は右翼系暴力団員からいわれのない脅迫を受けた経緯があったこと等のにわかに措信し難い内容であることからすれば,原告らがこのように居住実態を秘匿していることは債権者等の追及を逃れる等の動機によるものである可能性も相当程度認められ,ひいては,原告が認めている借財以外にも原告に借財がある可能性も相当程度認められるといえる。
(ウ)そして,本件建物の購入価格は,本件不動産の代金合計額が2420万円であることからして,その一部であると解されるところ(なお,本件不動産の購入価格のうち,どの部分が本件建物の購入価格であるかついては,不動産売買契約書上は明らかでない。
甲7),前記前提事実のとおり,この購入価格と比較して相当多額の基本保険金額(6024万円)が本件保険契約において設定されていたことからすると,(前記認定事実のとおり,当該金額が原告主導で決められたものではないと認められることを考慮しても)原告は本件火災によって,相当額の経済的利得を得ることになるということができる。
(エ)以上からすれば,原告に本件建物を火災により焼失させて保険金を領得する動機があったと考えることは十分可能である。
(オ)なお,前記認定事実のとおり,Eは,多額の借財を抱えており,破産するか否かを迷っている経済状態であったというのであるから,本件共済契約に基づく共済金を取得しようと意図して原告に協力し
たとしても矛盾はない。
オ 小括
(ア)以上で指摘した各事情は,いずれも,原告が近い将来における火災の発生を具体的に想定し,保険金を取得することを目的として,原告又はその意を受けた者が本件火災を引き起こしたことを推認さ
せるものといえる。
(イ)そして,この推論は,本件火災が平成19年12月2日という,本件保険契約の締結時(平成19年10月17日)及び本件共済契
約の締結時(平成19年11月16日)からさほど間がない時期に
発生した事実によって補強されるということができる。
(6)まとめ
以上の検討のとおり,本件建物の焼損状況等からみて,本件火災の出火場所は本件建物内であると考えられること,本件火災の出火原因が放火以外である可能性は極めて低いこと,本件建物の状況等に照らすと,第三者による放火の可能性も極めて低いこと,これに対して,原告が本件建物を購入する合理的な理由があったとは認められないこと,原告がEに本件建物を占有させていた合理的な理由があったとは認められないこと,その他の上記各認定の事情を総合的に考慮すれば,本件火災は原告又はその意を受けた者の故意によるものと推認するのが相当である。
2 以上のとおり,本件火災が原告又はその意を受けた者の故意によるものであると認められる以上,被告は原告に対して本件保険契約に基づく保険金支払義務を負わないことになるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。

第4 結論

以上の次第で,原告の本件請求は理由がないから棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。

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